無敗ロードを歩むような圧倒的な強さはないけれど、強か(したたか)である。どこにでもいるような小学生たちが展開する野球は、手練れで完成度が高く、リカバリーやフォローにも長けていて勝負強い。「日本一」の呼び声が高まるなかでも、指導陣と保護者は変わらず、人として模範。6年生12人には輝ける持ち場があり、思考や意思もまたそれぞれ。2026年、当メディアの巻頭記事も飾ったラウンダースが、いよいよ勝負の夏へと向かう。
(写真&文=大久保克哉)
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“野球ざんまい”のV候補。精度を求めつつ三の矢、四の矢も

ラウンダース
2年ぶり3回目
初出場=2018年
最高成績=ベスト16/2018年
【全国スポ少交流】
出場=なし
【県大会の軌跡】
1回戦〇14対0韮崎甘利
2回戦〇7対1SNSベースボールクラブ
準決勝〇7対0甲府城東JBC
決 勝〇6対1中央ジュニアベースボールクラブ
Vのご褒美は…
全国出場を決めたその日ですら、選手からこういうリクエストもあったという。
「監督、今日も練習しましょう!!」

エースの伊藤誉が、開始1球目に110㎞を投じたのが午前10時50分。ラウンダースはそれから2時間のうちに、山梨県のチャンピオンとなり、表彰式に続く記念撮影や胴上げも済ませていた。そして会場の山日YBS球場を引き上げる日原宏幸監督が、ゆったりと歩きながら話した
「今日はこの後の半日はお休みにします。これからここで巨人の三軍戦があるので、観ていく子もいるみたいです…ウチは基本的にオフがないんですよ。子どもたちが『やりたい!』と言ってくるので。平日の練習(水・木曜)から、またスタートします」

胴上げ㊤直後の指揮官「うれしいですね、その一語に尽きます。お父さんお母さんたちがこれだけ集まるんですよね、ウチのチームは。それだけでも感謝ですし、練習もそういうのが力になって子どもたちが仕上がってきているので、ホントに感謝しています」。指導陣は㊦手前から、日原監督、益田陽介コーチ、奥山嘉紀コーチ

学生野球では「野球漬け」という言葉は聞くが、このチームは趣が違う。言うなれば“野球ざんまい”。優勝のご褒美ですら、野球――縄で縛りつけなくても、子ども主導でそういう世界をつとに創りあげている時点で、明らかな勝ち組である。
「奇跡」が日常的に
県決勝は6対1の快勝だった。
攻めては五番・奥山葵登主将が、先制とダメ押しの長打。投げては先発の伊藤が自己最速を115㎞に塗り替え、5回2安打6奪三振の1失点(自責点0)でまとめた。守ってのミスは悪送球1つのみ。最終回は左腕の深沢琉が締めている。

奥山主将㊤(中央)はプレーでも言動でも仲間を引っ張る絶対的なリーダーだ
甲府市の空に舞った日原宏幸監督は、夏の本大会に向けて兜の緒を締めた。
「今日できなかったエンドラン。少なくとも、打者はバットに当てて走者をアウトにしないように。あとは引き続き、バントの精度を高めることと、投手陣はいかにムダ球をなくすか。そういうところをやっていきたいと思っています」

課題とした「エンドラン」は、初回の先制機に立て続けに失敗。いずれも打者が空振りして三走がタッチアウトに。それを帳消しにした主将の先制打はお見事だったが、より驚くのは指揮官の冷徹さ。エンドランを2回失敗した時点で、そのまま3アウトになることも想定し、以降の展開に考えを巡らせていたという。
「当然です。(初回は)あのままゼロで終わるという心づもりでした」

右腕の国久が、非登板時は三塁コーチで重要な任務を負う
日原監督は過去の単独インタビュー(※動画参照)で、「タイムリーヒットは奇跡だと思っている」と本音を吐露。その上で、走塁と小技を絡めた攻撃とその精度アップの必要性を説いている。負けパターンを想定しながらの采配も“日原流”で、県決勝を前にした選手たちへは、このように伝えたそうだ。
「先に点を取られることもあるだろうけど、慌てなくていい。最終的にウチは必ず5点は取るから、落ち着いていこう!」

あくまでも身内に向けた発言だったが、指揮官の手応えのほどもうかがえる。
昨秋の関東新人戦は準優勝(チームルポ➡こちら)。そこで外部の大人たちもうならせた、細やかな野球は健在だ。さらに、ひと冬を経ての打力の飛躍的な向上が、春先の東日本交流大会(優勝※リポート➡こちら)で顕著に。

タイムリーヒットが「奇跡」と呼べぬほど、日常的に生まれている。全国予選のラスト2試合だけでも、トータル16安打のうち5本は適時打(ソロ本塁打含む)だった。それも上位打線だけではなく、準決勝では八番・小番歩輝がサヨナラコールド勝ちを決める一打をライトへ(=㊤写真)。
またそれ以前に、バントとエンドランは打順や走者に関係なく、いつでもできるから「5得点」の計算も立つのだろう。2試合とも先頭打者ヒットから生還した一番・伊藤(=㊦写真)は、全国予選の勝因をこう語る。
「日々の練習とか生活が、そのまま試合に出ている感じ。みんな練習からちゃんとやっているから、良いプレーができたり、バッティングとかも良くなったと思います」


四番・降矢聖悟は準決勝の初回に、中前へポトリと落ちるタイムリー(=㊤写真)。けれども自分を戒めてから、全国大会に向けての抱負を口にした。「あのタイムリーは、エンドランのサインで打球を上げちゃったのでダメです。全国では誉クン(伊藤)よりも速いピッチャーとかも出てくると思うので、どんな球でも対応して打ち返せるように練習していきたいと思います」。
準決勝では、その降矢の1本以外にも、走者三塁からのエンドランによる得点が1。九番の小玉翔太が、きっちりとゴロを転がした。決勝は先述のように、エンドランを続けてしくじるも、適時打で挽回している。

小玉は小柄だが三塁守備で好守も相次ぎ、白い歯もこぼれた㊤。一塁手の雨宮城㊦は守備範囲も確実性も格段に向上

一の矢、二の矢が的を外しても、三の矢、四の矢がすっと放たれる。万端の備えと想定内が、無類の勝負強さや板についた試合運びに結びついているのだろう。V戦士たちはまた口々に、フォア・ザ・チームの精神が根底にあると語った。
「失敗してもみんなで励まし合って、1点を取りにいったというのは、すごい良かったと思います」(小番)
春先は四番も任され、一塁守備も明らかに上達している雨宮城玖も、モチベーションは自身に起因してない。「これまで成長痛で、ヒザとかが痛くて悩んでいたときもあったけど、チームに貢献できるように練習してきました。打順は何番でもいいから、これからもチームが勝てるように練習していきたいと思います」。

投げては104㎞、攻めてはバント安打も本塁打もあり、中堅を守ればセンターゴロも。佐野は伊藤に次ぐスケールのタレントだ
決勝の3回に、流れをグッと引き寄せる本塁打(大会2本目)を放った佐野大翔は、スタンドに祖父母と友人の姿もあったことから「打てたらいいなと思っていました」と素直に打ち明ける。ただし、欲をかいてはいなかった。「ヒットを狙いにいった結果がホームランになって、うれしかったです」。
真の全員野球
『2026年注目戦士❷』(➡こちら)で紹介している、エース右腕の伊藤はモンスター級のタレントだ。打席でも塁上でも遊撃を守っても、パフォーマンスと貢献度はハンパない。また二塁と三塁を守る奥山主将のキャプテンシーも、小学生の域にない。

この2人は、2年前の全国大会でもプレーしており、現チームでは屋台骨に。そして投手を中心とする磐石の守りが、安定した戦いのべースにあると語るのは日原監督だ。
「大量に点を取られる心配がない。そういうところからの、落ち着きがありますね」
6年生は12人。昨秋の関東新人戦はスタメンの9人と、救援投手の深沢の10人で全試合を乗り切ったが、今では全12人が欠かせぬピースとなって機能している。

山梨大会は右の伊藤から左の佐野へと、本格派の継投を軸に勝ち上がった。並のチームなら絶対的なエースになっているだろう佐野は、大会中に最速を104㎞に更新したが、追求しているのは「打たせて取る投球」。同じく左腕の深沢(=㊤写真)は、関東新人戦から球速が10kmも増しており、右の国久大輝は準決勝の最終回を締めるなど、安定感と出番を増している。
「全国でも当然、伊藤の力をなくして上には行けないと思っていますけど、(投球は)1週間で210球までというルール(2026年導入)もありますので、いかにうまくつなぐかが課題になってきますね」

日原監督はおそらくそれも見据えて、早い段階から手を打ってきた。
結果、4枚の投手陣はハッキリと底上げされ、昨秋はベンチウォーマーだった小玉と佐藤統理(=㊤写真)がスタメンを張るまでに台頭。さらに、1人が複数のポジションをそつなく守れるようになってきたことで、投手交代に伴う布陣変更でも守備力にムラがなくなっている。
雨宮朝陽(=㊦写真)は遊撃、二塁、中堅とどこを守ってもスペシャリストで、主に左翼と三塁を守る小番はマスクもかぶれる。この2人は打線にあっても、状況に応じて何でもできる万能タイプ。「10人いれば十人十色」とは、日原監督の指導論だが、12人全員がフィールドで輝ける。“全員野球”は、分け隔てのない練習による必然だ。

史上最強の裏付け
真夏の全国大会は優勝するとなると、最多6連戦となる。ラウンダースは初出場時の2018年に3回戦(ベスト16)まで進出。2回目の2024年は、若いチームで初戦を突破した。「何とかその上まではいけるように」と兼ねてから話していた指揮官は、着々とその体制を整えてきている。

2年前に四番・捕手だった中村准㊦(現中2)から、弟の悠㊤が扇の要を引き継いでいる

層の厚さと経験値は、過去2回の全国出場時の比ではない。今年は東日本交流大会に初めて招かれたほか、県外の全国区の強豪チームとの手合わせも数えきれないほど。ただし、遠征や試合が増えれば、保護者たちの負担も確実に増す。

マスクをかぶる中村悠の母・政子さんは、早い日には午前3時起きで弁当や朝食をつくり始めるという。
「密な日々ですね。金銭的な面も含めて、手放しでは喜べないところもあるんですけど、こんな経験も一生に1回かな…。本人(息子)には『良い顔が見られれば、それでいいよ』とだけ伝えています。保護者たちも個性がそれぞれあると思いますけど、大事なときに『よし、みんなでやろうゼ!』という感じで協調し合えて、とてもうれしいし、ありがたく思っています」
2年前の兄に続いて、正捕手として全国出場を決めた中村は、母へのメッセージを筆者に託している。
『お母さん、いつも応援ありがとうございます!』


また、誰に頼まれたわけでもなく、スタンドで太鼓を叩いて応援やエール交換の音頭をとっているのは、小番の母・朋子さん(=㊤写真)。県予選を制した日、帰宅した息子からおそらく感謝を告げられたはず。小番は試合後のインタビューの最後に、こう話してくれた。
「(母は)いつもみんなのことを応援してくれているので、ありがとうという気持ちを帰ったら伝えたいと思います」
“野球ざんまい”から波及する、各家庭の幸せ。みんなの足で登る高い山があるから、それも増幅するのだろう。真夏の四国・愛媛でも、きっと「良い顔」が見られる。子どもだけではなく、親も指導者も。


【県大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6 奥山葵登
⓪6 深沢琉
①6 伊藤誉
②6 中村悠
③6 雨宮城玖
⑥6 雨宮朝陽
⑦6 小番瑞樹
⑧6 佐野大翔
⑨6 降矢聖悟
⑫6 佐藤統理
⑬6 国久大輝
⑭6 小玉翔太
⑮5 矢部三志郎
⑯5 雨宮瑞月
⑰5 小番歩輝
⑱5 山寺朝陽
⑲5 渡辺智希
㉑5 益田希華
㉒5 石川あこ